ジェネシス(創世記)
ダデの弾く流暢な竪琴の調べが、ウル国王の心を響かせた。染み入る旋律が、涙を誘った。過去の楽しい出来事、悲しい出来事を思い出し、癒されたのに違いない。

ウル国王はすでに、「主」から見放されていた。自分のうぬぼれ、自信過剰から「主」に捨てられた事を悟り、ムルに対しても謝罪の思いで一杯だったようだ。

「主が喜ばれるのは、焼き尽くすささげ物や生けにえであろうか。むしろ、主の御声に聞き従うことではないか(サムエル記、上)」

 しかしいつまでも、感傷に浸っている暇はない。パレス人は新たな刺客を送り込んできた。ゴアだ。大男で怪力自慢、最も優れた戦士だ。

ゴアだけで、大勢のラエル兵が殺傷された。怪力サムよりも、屈強かもしれない。ゴアは、腰抜けのラエル兵に一対一の戦いを申し込んできた。だが、だれ一人として戦う勇気のある者はいなかった。

「お前の肉を、空の鳥や野の獣にくれてやろう(サムエル記、上)」

 しびれを切らしたダデが、名乗りを上げた。ゴアはあきれ返った。まだニ0歳そこそこの青年ではないか。倒すのに片手で十分だと笑った。

けれども、ダデはとがった石を手にしては、ゴアの額に向けて投げ付けた。ゴアの眉間に命中した。そこは急所だった。

 ゴアは、額から流れ出る血を両手で押さえて、地面に倒れこんでしまった。そのスキをねらって、ダデはゴアの槍をつかみ何度も何度も刺しては殺すのであった。ダデの投石能力、素早い動きに、さすがの巨人ゴアも息絶えてしまった。

 この決闘でダデは、勇気と信頼を勝ち取りウル国王の側近として従事するようになった。またウル国王の息子ヨナとも、親しくなった。
 

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