ジェネシス(創世記)
第八章 帝国の覇者
第八章 帝国の覇者

 私は自称、伝記作家。妻に内緒で、借金をしてまで本を出版した。全然売れないので、いつまでたっても返済ができない。妻にばれたらどうしようか。

 妻からは毎日のように、「ダメ亭主」と呼ばれている。愛想をつかされ、離婚は時間の問題だ。妻はきっと、金のある男性を見つけては、浮気しているのに違いない。

バカ息子たちは非行に走っては、警察にごやっかいになっている。私はストレスがたまり、髪の毛も薄くなった。転職もしたいが、他にできる仕事もなければ技術も資格もない。能無しだ。

 本職は宮司。国立大学を卒業しても、要領や成績が悪く、万年平宮司だ。後輩たちが出世し、自分は部下となる。お人好しで優柔不断。何をやっても裏目に出る、情けない男だ。

 妻のストレス発散方法は、私への暴力だ。反論できない自分が悲しい。妻よ、許して下さい。ドメスティック・バイオレンス(家庭内暴力)は、やめて下さい。

 私が、妻の悪態から逃れる方法は、執筆活動しかない。図書館にこもって、ユダ人の歴史を研究している。「出張」と偽って、ユダ人に関係のある土地を訪れてみたい。


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