ジェネシス(創世記)
第二章 大洋に浮かぶ島
第二章 大洋に浮かぶ島

「自然は神の生きた、服装である(カーライル)」

 私は、先祖代々から語り継がれてきた逸話を、家長として子孫に伝える役目がある。なおかつ、目に見えぬ「主」の存在を信じ敬い、私の一族は繁栄し続けることであろう。

「自然は一巻の書物であり、神がその著者である(ハーヴェイ)」

 私たちの、「主」の名は「アーベ(光りし者)」、それは私の祖先の名前であった。アーベが生まれた時、夜空が明るく輝いた。

晩秋、「しし座」と呼ばれる方角であろうか。流れ星が土砂降りのごとく降り続いたため、夜空が昼間のように明るかったらしい。

 アーベは、「主」を信じていた。それまでは、「主」に名前もなかった。孫のアダ(赤い土の上で産まれた者)が、アーベを尊敬し称えるために名付けたようだ。

目に見えることのない「主」とは、思うに「光。太陽」のことを指しているのかもしれない。人によっては、月の隣にある「火星」のことだと言う人もいる。

 アーベは、幼少の頃から星空を眺めていた。時の流れを肌で感じていた。乾季と雨季、暖かい日・寒い日、影が最も長い日・最も短い日。

木の葉が緑色になったり、気温が八度以下になると赤く染まったりもした。種から花が咲き誇り、枯れては朽ちていった。

 暑い夏が終わるころ、なぜか「主」の怒りをもっとも受けやすい時期となった。雷鳴が轟き、雨や風も強くなり、川は氾濫し、山の谷間から濁流が押し寄せた。

海の波は大きくうねりを上げて、海岸線を襲った。秋には野生の果物がたわわに実り、その収穫を待ち望んだ。寒い冬に備えて、食料を備蓄しなければならない。
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