ジェネシス(創世記)
第九章 クリストスの世界
第九章 クリストスの世界

「父さん、父さん。見て、これを見て」

とある荒れ果てた山の中で、羊を追っていた少年が叫んだ。何かを発見したようだ。

「天よ聞け、地よ耳を傾けよ、主が語られる。私は子らを育てて大きくした。しかし、彼らは私に背いた(イザヤ書一)」

 紀元前六三年、すでにエルサレムはローマ軍によって支配されていた。紀元前三七年、ロデ国王はユダ人ではないが、ハスモン朝の王、ヒル二世の娘と結婚したことで、ローマ帝国の有力者からユダ人の国王に任命されてしまった。

 ロデ国王は、紀元前二二年からカイザリア港の再建設に着手し、エルサレムの神殿などを大改修した。各地に都市を築き、自分のためにも宮殿を建てた。さらに断崖絶壁の場所に、マサダの要塞を造った。

そんなロデ国王は、専制政治(支配者たちが、民衆の意見を聞くことなく実施すること)を行ったが、その手腕はモン国王の再来といわれるほどだった。

 長い歴史の中で、ラエル人は四つの宗派に別れていた。カイ派・サイ派・熱烈党、そして私が所属するセイ派である。

 カイ派、ダデの時代から続いた、司祭者の子孫。律法を重んじたが、紀元七0年頃、エルサレムの神殿の崩壊により衰退していった。サイ派、律法をより厳格に重んじる集団で、それを乱すイゼスに死罪を言い渡した。

セイ派、俗世間から離れ、荒れ野で生活する集団。イゼスや洗礼者ヨネも、ここに所属していた。熱烈党、ローマ帝国に反旗を翻した屈強な集団。紀元七三年、マサダの砦で自決してから絶えてしまった。

「敵を愛し、自分を迫害する者のために祈りなさい(マタイの福音書五)」
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