ジェネシス(創世記)
「地球儀の あをきひかりの 五月きぬ(木下夕爾)」

 三六億年前、火星には「海」があり「微生物」も存在していた。つまり、そこで生活するということは、新種のウイルス(濾過性病原菌)に感染するということだ。ワクチン開発には、三ヶ月以上はかかる。すぐに作れるものではない。

 感染が始まれば、全員が死滅する。ウイルスは「核」をもっているが、タンパク質となる細胞を持たない生物だ。しかも自己増殖はできない。

他の細胞に寄生してはじめて増殖できる。つまり、増殖するために人類の到来を待っているようなものだ。当然原始細菌の基礎研究も、求められた。それは、ユダ人に任された。

 火星には、薄い大気がある。大気圧は地球の一00の一.七hpaだ。それは地球の高度三万メートルにも匹敵する。大気の主成分は、九五%が二酸化炭素(CO2)である。

 毎秒四0メートルの砂嵐(モンスター・ダスト・デビル)は発生するが、大気が薄いので風圧は決して強くない。平均気温はマイナス五八度と極端に低い。赤道付近は高くても二七度だ。

 オゾン層(O3)がなく磁気も弱いため、地表には紫外線や放射線が直接届く。マーズ・ダイレクトだ。そのため、地表面の砂や岩石の鉄分が酸化されやすく赤い星に見える。

 一一年周期で起こる、太陽フレアー(太陽表面の爆発)から発する放射線の被爆量は、甚大である。特にアルファ粒子(ヘリウムの原子核)は、体内を貫通すると即死する。

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