ジェネシス(創世記)
「救世主アダ」が生まれてから一000年後、南極に隕石が落下し、アトラス大陸は一夜にして沈んだ。大洪水が襲い、ノエルは方舟にのって難を逃れた。

 ノエルが没してから、小氷河期は三000年近くもかけてゆるやかに温暖化へと向かった。その間、ノエルの子孫はユーフラテス川の付近で、寒さと飢えに耐え忍びながらも、生き続けた。「主」の御加護を信じながら、子孫たちは苦難を乗り越えた。

 ノエルとその長男ザムの子孫(セム語族へライ人。さすらう人)たちは、チグリス川とユーフラテス川流域にある、「ウル」という土地に流れついた。

ここには、「シュメール人」という原住民がいた。子孫たちは失われた記憶を呼び覚まして、その科学技術と英知と文才と商才を駆使して、原住民に高度な文明を与えた。

 しかしながら、子孫たちの功績は一切語られていない。なぜなら、シュメール人がノエル族を迫害し、その知識と技術力を奪ってしまったからだ。

後世の人々は、シュメール人が文明の礎を築いたと信じることであろう。その後、この流域では「メソポタミア文明」が発祥するに至った。

 私自身、祖先を疑うわけではないが、「失われた大陸」の話など信じていない。反面、二つの川が氾濫して洪水となり、あの大アララト山(標高五一六五メートル。

小アララト山、標高三九二五メートル)の中腹まで川の水が増したという話も、理屈では考えられない。本当にノエルは、方舟で大アララト山に漂着したのであろうか。

 「ヘライ文字」がまだ、普及されていない時代だ。言葉だけで語り継がられるということは、どこかで言葉が変えられるということだ。

伝言ゲームをしていても、三~四人でさえ誤った言葉が伝えられるように、ノエルの言.葉を全て伝えることには疑問を抱く。

しかしあえて私は、両親や祖父母たちから語られた言葉を、書き記すことにした。書き残すしかない。

 ちなみに、ノエルの次男ベーテは、インド・ヨーロッパ語族の祖先となった。三男ガムの子孫は、ケイン人として後の「ソドムとゴモラ」の町を支配した。

「カナンは呪われよ、奴隷の奴隷となり、兄たちに仕えよ(創世記)」


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