蝶々結び
「地元なんですか?」


「いや、就職がこっちになったから引っ越して来たんだ」


「あぁ、だから……」


「この辺の事、まだわかんねぇんだよな」


「お店とか知りたいなら言って下さい。地元の事なら、結構知ってますから」


いつもなら馴れ合ったりはしないのに、自然とそう言っていた。


「じゃあさ……」


「はい……」


不意に上杉先生が真剣な顔になったから、少しだけ身構えた。


「漫喫ってねぇの?」


「……漫画喫茶ですか?」


意外な言葉に、目を小さく見開きながら訊き返した。


「そうっ!!漫画が好きなんだけど、この辺って漫喫ねぇんだよな!」


「それなら、駅の裏に一軒ありますよ?」


「マジ!?」


「フフッ、子供みたい」


あたしは、思わず笑ってしまった。


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