蝶々結び
「もう一度、この場所から始めよう」


そう言った上杉先生の声があまりにも優しかったから、嬉しい気持ちよりも先に涙が溢れてしまった。


「須藤七星さん」


先生はニッコリと笑って、あたしの名前を呼んだ。


「はい……」


震える声で小さく返事をしたあたしに、上杉先生が微笑みを向ける。


「今度は絶対に離さない……。だから、俺とずっと一緒にいて下さい」


その言葉を聞いた瞬間、先生の顔が見えなくなってしまった。


返事をしたいのに、後から後から溢れて来る涙がそれを妨げる。


「七星……。返事は？」


優しく訊いた上杉先生は、きっと優しい笑みを浮かべているんだ。


涙で視界がぼやけているのに、先生の優しい笑顔が見えた気がした。


あたしは手の甲で涙を拭った後、上杉先生に精一杯の笑みを向けながら口を開いた。


< 486 / 494 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop