蝶々結び
「空き時間に散歩してたら、鍵が壊れてる事を知ったんだ。誰も気付いてないみたいだけど、無用心だよな」


悪戯に笑った上杉先生が躊躇う事無く金網のドアを開け、あたしの手を引いたまま中に入った。


「先生……。もしかして……」


あたしが言い終わる前に足を止めた先生が、ゆっくりと振り返る。


「ここが俺達の始まりの場所だ……」


優しく言った上杉先生に連れられて着いた場所は、学校の中にある桜の木の下だった。


月明かりだけに照らされた桜の木は、どこか寂しげに見えたけど…


あたしと上杉先生の始まりの場所だと思うと、柔らかな温もりに溢れているようにも思える。


「最後にここに来たのは、七星と別れた時だったからな……」


「先生……」


「七星」


上杉先生は優しく微笑むと、あたしを真っ直ぐ見つめた。


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