准教授 高野先生の結婚

学生たちに混ざって“僕はキューピッドの係”なーんて言い出した並木先生の真意。

どんくさくてお子様な私はそれに気づきもしなかった。

けれども、寛行さんはちゃんとわかっていたのである。

だから、あのとき――

冗談みたいに笑いながらも、丁寧に並木先生に頭を下げたのだ。

“自分がよしなに計らうので案ずる事は無い”という並木先生の心強いお申し出に。

“どうぞ彼女をよろしくお願いします”と、心もとない私のことを託したのである。

「私、並木先生に足向けて寝られないな」

「僕だって。ついつい甘えて、先生には色々と骨を折らせてしまったからね」

「だから、私たち……」

「うん?」

「幸せにならなきゃね、絶対に」

「うん。それが何よりのご恩返しだろうからね」

「私ね、結婚のこと、やっと皆に報告できてほっとして、なんかすっきりした」

「そっか。それはよかった」

「さあて、年が明けたら色々忙しくなるぞーっ。頑張ろうね!」

「うん、頑張ろう」

今夜は独身最後のクリスマスイヴ。

飲んだくれた忘年会。

愛すべき仲間たち。

そして、頼もしい老練なキューピッド。

プレゼントは昨日もらったはずなのに……。

なのに――

今日もまたもらってしまったような……。

「トナカイって、けっこう太っ腹だよね」

「うん???」

「なんでもなーい」

不思議がる彼をそのままに、私は一人くつくつと笑った。


週明けにはもう郷里へ帰省する私たち。

もうすぐ――

記念すべき新しい年がやってくる。



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