准教授 高野先生の結婚

通勤はいつも彼が運転する車で、ふたり一緒に。

ちょっと遠回りになるのに、私の職場を経由して送ってくれる寛行さん。

時刻表を気にしなくていいのも、混みあうバスで窮屈な思いをしなくていいのも、みんな彼のおかげ。

彼が毎朝、私の時間に合わせて出勤してくれるから。

本当なら朝イチの講義でもない限り、彼はもっとゆっくり家を出られるのに。

なのに、私の始業時間に間に合うように一緒に出かけてくれる。

朝が弱い私としては大助かりでありがたいかぎり。

でも、やっぱり申し訳ないなぁって気持ちもあったり……。

そんな私の気持ちを察して、彼は言ってくれたのだった。

「誰よりも早く出勤して朝からバリバリ仕事するなんて、いかにもデキる男っぽいじゃない?」って。

「君のおかげで僕もデキる男の仲間入りというわけだ」と、彼は笑ってくれた。

なんていうか……彼らしい優しさだな、って。

ほんっと、いい人と結婚しちゃったな、って。

今日も私は優しい旦那様に甘えている。

車の中では、朝はいつもだいたいラジオがかかっているのだけど今朝は違った。


「朝なのに音楽ってめずらしいね。しかも歌詞アリだし」

「生協で見かけてつい買ってしまったんだよ。カバーアルバム特集ってコーナーができていてさ」

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