准教授 高野先生の結婚

まったく、これじゃあまるで私が作為的に仕向けたみたいだし……。

彼がいつもより早く目が覚めるように。

早く起きた人がレシピどおりに下ごしらえをしておくように。

しかも……。


「重ねがさね申し訳ないことデス。焼くところまでやっていただいて……」

「まあまあ、気にしないで」


結局、最後の仕上げまですっかりやらせているという始末。


「それにさ、こう言ってはなんだけど、僕が焼いたほうが確実な気がするしね」

「うぅ……」


ちょっと腹立たしいけど何も言い返せない。

そもそも私は何につけても“過ぎる”のだ。

焼きすぎ、煮すぎ、温めすぎ……。

味付けにしても然り、である。


今朝の寛行さんは、なんだかとっても上機嫌。

上手に火加減を調節しながら、楽しそうに鼻歌なんて歌ってるし。

ん?この曲って、なんだっけ???

CMで聞いたことあるような、ドラマで聞いたことあるような……?


「詩織ちゃん」

「えっ」

「そろそろ、お皿出してもらえるかな?」

「あっ、はいはい。ただいまっ」

「慌てなくても大丈夫なんだけどね」


おやおやと彼に笑われながら、私は慌ててお気に入りの白いお皿を2枚並べて用意した。


ふんわり甘い夢のようないい匂い。

完璧な焼き加減のフレンチトーストを二人でいただく朝ごはん。


「寛行さんの仕事、確実ですね」

「いい仕事してる?」

「してるしてる。あー、美味しくて幸せ」

「幸福度上昇中?」

「うん!もうね、鰻登りデスよ」

「また君の表現はいつもその、なんと言うか……」

「でもなぁ。あーあ、今日がお休みだったら完璧な朝なのになぁ」

「あ、幸福度急降下」

「むぅぅ。だって……」

「まあまあ。美味しいもの食べて元気出してさ。あっという間にお昼だよ、きっと」


そう、半日とはいえ土曜はいつも出勤の私たち。

たとえ明日に結婚式を控えていようと関係なく、本日も平常通りの営業なのだから。
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