しずめの遭難日記
第一話 日記
その日は昨日までの猛吹雪が嘘のような、雲一つない快晴だった。
 バラバラバラバラバラ。
 目の前いっぱいに広がる青と白色のコントラストの中に、山岳警備隊のヘリコプターが黒い影を落とす。
「最後に通信があったのはこの辺りか?」
 男は、ヘリコプターの中から、日の光を強く反射する雪山の斜面を睨み付けていた。
 男の名前は野上。野上 惣太。この辺り一帯のアルプス山脈の山岳警備隊に20年務めている山岳警備隊員だ。
 野上が捜索しているのは、2週間前から行方不明になっている新野一家だ。一家の主、新野 鍛治は、元々信州はここ阿南町の生まれで、二十歳になり名古屋の方へ就職したものの、年に何度かはこの地に残した母の元へ訪れているという。趣味は山登りで、登山歴はかなりのものだという話だった。そんな新野 鍛治、そして娘のしずめと、妻の神楽を含めた一家三人の家族が、阿南町に住む母親、新野 多恵にほんの三日ほど登山へ行ってくる。と家を開けてから、すでに二週間が過ぎた。いつまでも帰らぬ息子一家を不審に思った鍛治の母、多恵が山岳警備隊に捜索を依頼した所から、野上の新野一家捜索の事件は始まった。
 新野一家の捜索願いが多恵から出されたのは、新野一家が登山を初めて一週間後の事だった。多恵は、息子である鍛治の登山経験の豊富さを熟知していたため、当初予定されていた三日の登山日程過ぎた時、不審には思ったそうだが、無類の山好きである息子が、勢い余って時間が経つのも忘れているのだろうと思い、通報を控えていたらしい。しかし、五日が過ぎても、一家が帰ってくる様子はなかった。そして、一週間が過ぎた時、さすがに心配になった多恵が山岳警備隊に通報したのだ。
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