【天使の片翼】
ファラのいなくなった部屋は、嘘のような静けさに包まれて、
王は、再び仕事に取り掛かった。
あのうるさい娘がいなくなったら、この城もずいぶんと静かになるに違いない。
王は、筆を置いて、ほお杖をついた。
・・ファラよりも、俺のほうが、さびしくて耐えきれんかもな。
王が、眉間にしわを寄せ、遠い目をした時、マーズレンが入ってきた。
その背後から、銀色の長い髪が、ゆらゆらと揺れて、見え隠れしている。
ファラに良く似た面差しの、美しい女性。
「カルレイン様。
お仕事中に、申し訳ないのですが、お話をしてもかまいませんか?」
音色のように、涼やかな声が、語りかけると、
王の眉間のしわが、見る間に消えてなくなり、かわりに口の端が吊りあがった。
「リリティスか。
まったく、来客続きで、仕事にならんな」
リリティスと呼ばれた女性は、優雅に微笑んだ。
とても、王との間に、4人の子をもうけたとは思えないほど、
若々しく、たおやかな雰囲気だ。