【天使の片翼】
それにしても、と、ソランは、一頭の馬を馬車から切り離しながら、思った。
・・ファラに振り向いてもらうには、
あの、完全無欠なカルレイン様に、対抗しなくてはならないんだよなぁ。
単なる見合いだ、とカルレインは言っていたが、
どちらにしても、ソランにとっては、楽しい話ではない。
はぁ、と再びため息をつきかけたところで、ファラの元気の良い声が、背中にかかった。
「終わった?」
「はいはい。今終わりますよ。お姫様」
そう言いながら、ファラの方を振り向いて、はっとする。
そこには、さっきまで、お姫様然としていたドレス姿のファラはなく、
いつもの、快活な格好をした、少女が、自然な笑顔を浮かべている。
ソランは、急に心臓の鼓動が早くなり、そんな自分自身に驚いた。
「どうかした?」
「い、いや。着替え、たんだ」
そりゃ、そうでしょ。あんな格好じゃ、馬にまたがれないもの、などと言いながら、
ファラは、ひらりと馬に飛び乗る。
空気のように、体重を感じさせず。
ファラが飛び乗ったときに巻き起こした風が、ソランの頬を優しく撫でて、
ソランは、胸が飛び跳ねた。