【天使の片翼】
うっ、と言葉につまり、
ソランは、答える代わりに、ファラの手から、馬の手綱をもぎ取った。
確かに女性が騎乗する習慣のないホウト国へ嫁げば、
ファラは一生騎乗する機会など、持てないのかもしれない。
「ちょっと、待ってろ。
準備するから」
「ありがとう、ソラン!!
だ~い好き!」
・・くそっ!
なんで、僕は、いつもいつも、こうもファラに弱いんだ。
今度こそ自分に従わせると、つい先刻したはずの決心が、あっさり覆される。
なにもかも、あの上目遣いが悪いのだ。
あれをやられると、つい、わがままをきいてしまう。
計算ずくでないところがさらに始末に終えない。
・・カルレイン様も、ファラには甘くなるわけだよな。
他の王子や王女たちには、優しくはあっても厳しくしつけている王。
それなのに、ファラにはなぜか、無条件に甘い。
それが、王だけではなく周囲も同じようにだ。
ファラは、確かに甘え上手だが、多分それだけではない何かを持っている。
それは、彼女の誠実さや、純粋さや、ひたむきさや。
そういった、性質に起因しているのだろうか。
ファラは、いつのまにか他人の心の中に、
しっかりと居場所を作って住み着いている、そんな印象を受ける。
対等に渡り合えるとしたら、王妃のリリティスくらいのものだろう。