【天使の片翼】

うっ、と言葉につまり、

ソランは、答える代わりに、ファラの手から、馬の手綱をもぎ取った。


確かに女性が騎乗する習慣のないホウト国へ嫁げば、

ファラは一生騎乗する機会など、持てないのかもしれない。


「ちょっと、待ってろ。

準備するから」


「ありがとう、ソラン!!

だ~い好き!」



・・くそっ!

なんで、僕は、いつもいつも、こうもファラに弱いんだ。



今度こそ自分に従わせると、つい先刻したはずの決心が、あっさり覆される。

なにもかも、あの上目遣いが悪いのだ。

あれをやられると、つい、わがままをきいてしまう。


計算ずくでないところがさらに始末に終えない。



・・カルレイン様も、ファラには甘くなるわけだよな。



他の王子や王女たちには、優しくはあっても厳しくしつけている王。

それなのに、ファラにはなぜか、無条件に甘い。


それが、王だけではなく周囲も同じようにだ。


ファラは、確かに甘え上手だが、多分それだけではない何かを持っている。

それは、彼女の誠実さや、純粋さや、ひたむきさや。

そういった、性質に起因しているのだろうか。


ファラは、いつのまにか他人の心の中に、

しっかりと居場所を作って住み着いている、そんな印象を受ける。


対等に渡り合えるとしたら、王妃のリリティスくらいのものだろう。








< 22 / 477 >

この作品をシェア

pagetop