【天使の片翼】

ソランは、腰に帯びた剣を握り締めて、唇を噛み締めた。

思いつめたようなその表情に、カルレインは眉間に深いしわを寄せる。


「命に代えても、か」


「はい」


ソランは、顎を引いてカルレインの命令を待った。

命を懸けて、救い出せ、と。

いや、命令などなくとも、いますぐ単身疾駆して、ファラを助け出したい。


今頃、泣き虫の幼馴染がどんな目にあっているか。

心臓を鷲掴みにして、何本もの針で突き刺されているように感じる。


それは、カルレインだとて同じはずだ。

俺の天使だなどと、恥ずかしげもなくあちこちで自慢している愛娘なのだから。


それなのに、カルレインが口にしたのは。


「簡単に言うな」


「は?」


「自分の命が、自分だけのものだなどとうぬぼれるな。

お前の命は、お前だけのものなどでは、決してない。

今までにお前を育ててくれた大勢の人の苦労と、

お前に食われて血や肉になった、たくさんの命からできている」


うぬぼれるな、と、カルレインはもう一度低くつぶやいた。


己に言い聞かせるように。


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