【天使の片翼】
よどみのないソランの声は、聞いていて心地がよかった。
ソードが何か言いかけたとき、ばたばたという足音が近づき、勢いよく扉が開いた。
「ソラン!」
先頭の侍女を見て、ソードはそれがソランの母であると一目でわかった。
茶色の瞳も、優しく弧を描く眉もそっくりだ。
その女は、ソランの寝台に顔を近づけ、抱きついた。
その後に続く人の群れが、あっという間に寝台を取り囲む。
その中に医者の姿を見つけて、ソードはそっとその場を離れようとした。
「あ、ソード様」
ソランの声に振り返ると、優しい瞳が自分を見ている。
「それ、机の上に置いておいてください」
それ、と指されたのは自分の持ってきた痛み止めのことだろう。
ソードは恥ずかしそうに俯くと、寝台の脇に置かれていた小さな机にそれを乗せた。
・・ありがとう、ソラン。
ファラの周りには、人間味あふれるものが多い。
うらやましい、と思いかけて、ソードは首を振った。
他人と己を比べて自分を卑下したり、相手を妬むのは間違っている。
それは、すべて自分自身の責任だ。
周りに人がいないというのなら、それは今までの自分自身の行為のせいだろう。
急に騒がしくなった部屋の中で、ただ一人静かな寝息を立てるファラが目に留まって、ソードは微笑んだ--。