【天使の片翼】
深い緑と、豊富な水に囲まれた小さな国に、その美しい城は、あった。
城の周りには、沢山の木や花が植わっており、一見すると、森の中にあるように見える。
そのため、人々は、この城の事を、親しみを持って、森海城(しんかいじょう)と呼んでいた。
その国を治める王は、若くして、農地改革を行い、
沈みかけたこの国を、見事立て直した賢王として名高く、多くの民から慕われている。
その賢王が、いつものように、執務室で、朝の決済をし始めたとき、
それは、起こった。
「お父様!!ここにいらっしゃるのですか?
私です!ファラです!」
甲高い声とともに、ドズドスと、よく響く足音。
姫様、お待ちください、王は、ただいま政務中で・・・。
執務室を守る衛兵の制止をふりきり、髪を乱して烈火のごとく現れたのは。
「ファラか。
もう少し、おしとやかに出来ないのか。
お前、もう15になるのだろう?」
やれやれ、とため息をつき、父王は、衛兵に手の甲を向けた。
出て行ってよい、という合図だ。
いつものことなのだろう。
衛兵も、困った顔をしながらも、特に何も言わず、短く頭を下げると部屋を出た。