飛べないカラスたち
「ルック、薄々気付いているかはわかりませんが、最近段々と仕事量が増えています。今は、誰一人欠けられても困るんです。ルックの体調をジャックドーは気遣ってくれているんですよ?勿論私たちも、ね」
「でも…」
「餓鬼じゃねぇなら、我侭言ってんなよ」
クロウのもっともらしい言葉に、何も言えなくなったルックは少しまだ不満そうな表情は拭えないまま唇を噛んでソファに座りなおした。
少し棘のあるクロウの言葉に苦笑するものの、レイヴンはとりあえず大人しくなったルックを見て微笑むと、話を続ける。
「ルックが体調を崩すと、クロウがまた目の下にクマを作って、普段はかっこいい顔がそれはそれは残念なことになりますしね」
「ちょっと待て、コラ」
今度はクロウが不満そうな表情でレイヴンを睨む。
その視線を意にも介さずに、ルックに言い聞かせるとレイヴンは話の終了を宣言した。
良いように利用されたクロウは、まだ少し不満が残るものの何も言わずに飲みかけていたビールを咽喉に流し込む。
用事が終わったレイヴンは『また連絡しますね』とだけ言い残して、自分の仕事場へと戻っていった。
残った二人は暫く何も語らなかった。
ルックは自分の無能さを気にして何も言えなくなり、悶々と自分の弱さを見つめなおす。
クロウは先ほど見た、写真の女のことを思い返して、少し眉を寄せてただ静かに深い溜息をつく。
少しの胸騒ぎを抱きながらも、それがいつものように無意味に終わることを少しだけ期待していた。
そして、静かに時間は過ぎ、『カラス』は動き出した。
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Side -jackdaw-