焦れ恋オフィス
本当は泣きたかった。

兄さんと離れたくなかった。

家族四人で暮らしたかった。

でも、言えなかった。

私が産まれて、両親が寄り添って愛を育んでくれれば、私の産まれた意味はあったけれど。
私の存在は、それを実現するには役不足だった。

私は『かすがい』にはなれなかった。

誰か…私を必要だと。
一番大切だって言って欲しいよ…。

家が見えるあの坂道で感じた寂しさなんか、早く忘れたいよ…。

誰かにぎゅっと抱き締められたい…。

…そう願った時。
暖かくて優しい腕に包まれた気がした。

寂しい記憶の闇から救い上げてくれたのは…誰?
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