焦れ恋オフィス


「芽依……俺は……」

「ねぇ、今晩また会社の女の子達と飲み会って言ってたよね」

何か言いかけた夏基の言葉を遮って、その場の雰囲気を変えるように聞くと。

言葉を封じられて、一瞬悲しそうに目を細めた夏基。

「……あぁ。現場で仲良くなった開発部が主催の飲み会に呼ばれてる」

「そうなんだ。開発部の女の子達ってかわいい子多いから、楽しみだね」

「……」

「こないだ私がプレゼントしたグレーのシャツ着てったら?夏基にすごく似合ってたよ」

「おい、芽依……」

「……じゃ、私は帰るね。私も今日はこれから約束があるんだ……」

そう言って、何てことないように肩を竦めた。

本当の気持ちが顔に出ていないか気になって、思わず俯いたけれど。

そんな私の様子を身動き一つせずに視線を送っていた夏基は、低い声で呟いた。

「高橋専務?」

瞬間、心臓が痛んだ。

けれど、それすら顔には出さないように口元を引き締めて顔を上げた。

「え?違うよ。花凛と出産準備の買い物に行くの」

必要以上に穏やかに囁くと、夏基は微かな吐息と共に。

「なぁ、それが終わったらここに戻ってこいよ。俺も飲み会早めに切り上げるから」


< 8 / 312 >

この作品をシェア

pagetop