焦れ恋オフィス
普段とは違う夏基の低い声に、私はどう答えればいいのかわからずに、夏基の隣りでただ俯いていた。
落とされた言葉が嬉しくないわけがない。
私を求めてくれているんじゃないかと、心は揺れて、その腕を掴んでしまいそうになるけれど。
ただ俯いて黙り込んでいた。
そして、ふと。
膝の上でぐっと握られている夏基の両手が、少し震えているのに気付いた。
顔を上げると、不安と緊張に揺れているような瞳とぶつかった。
いつも軽やかに本音を隠して、仕事以外の事は何があろうと余裕で切り捨てている夏基。
笑顔で接する時間が過ぎれば、目の前にいた女の子は過去のものとなって、たとえ体を重ねていたとしても、夏基の懐にまで取り込んではもらえない。
これまでは、ずっとそんな関係で、うわべだけの付き合いが信条とでもいうように恋愛をこなしてきた夏基。
そして、それはきっと、私にも当てはまるはずだ。
ただ、夏基の部屋の合鍵をもらって、自由に出入しているという私は、ほんの少しだけ他の女の子よりも愛情をたくさんもらっているのかもしれないけれど。
女の子から誘われるままに笑顔と時間を消費して、決して本気にはならない。
半年前に彼女と別れてからは、特にそうだ。
唯一、仕事だけにはかなりの情熱を注いでいて、将来は社内の設計部門のリーダーになるだろうと期待されている。
その姿が、夏基の本来の姿なんだと思う。