言霊師
「言霊を翔ばす、か。
神とは小賢しい真似をするものだな。」
言霊を握り潰した男は、掌を見て笑った。
屋敷は代々受け継いだ物で、長い廊下はキシキシ鳴る。男が外へ出ようと足を進めると、スッ…と横から来た和服姿の女性が障子を開けた。
「…ほら、懐かしい名じゃないか。
お前も覚えているだろう?
―――大切な人の敵を取る為に言霊師になった、僕の従兄弟だ。」
女性に、つい先程捕まえた言霊を見せながらそう告げた男は、そろそろ冷えてくるな、と呟くと踵を返して部屋に戻った。
その後ろ姿を見送る女性が震えていたのは、寒さの為だけではない。その紅い口や真白な指先は、この先起こる事を見通して震えていたのだ。