YIH
Ideology Crisis
人間という生態系の頂点に君臨し、恵まれた国に生まれ、勉強も運動も容姿も平凡、悩みといえば《なぜ生きている必要があるのか》と少々根暗な性格の上に、将来の夢もまるで見つからない。
それが僕だ。
こんな僕に、存在価値すらも怪しい僕に、声をかけてくれた不思議な存在が、僕の目の前でカルピスを啜っている遊佐藍嘉なのである。
「ハクー?どうした?」
「いえ、少し考え事をしていただけです」
「そんなことしてるから影薄いって言われるんだよ、もう」
少し膨れた藍嘉さんはとても可愛い。
今だって、遠巻きに彼女(正確には彼だ)を見つめる人がちらほら見受けられる。
「アイさん」
「なーに?」
「ここは大学です」
「うん」
「あなたは高校生です」
「…うん」
「学校サボって何してるんですか」
「……」
「……」
「…ごめんなさい」
無言の圧力に負けたのか、素直に謝罪をしてきた。
だが、僕に謝られても困る。藍嘉さんの保護者は僕ではない。
「このことをロクさんには?」
「内緒にして!」
「…僕が殺されます」
「俺が外出禁止になるよ!お願い、ハク」
藍嘉さんは僕の命よりも外出の方が大事のようだ。軽くショックを受けつつも仕方なく肯く。
花が咲いたように破顔した藍嘉さんは、愛用のポシェットから一枚の紙切れを取り出した。
何だか嫌な予感がする。
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