YIH
「到着!」
「嬉しそうですね、アイさん」
「え?…ち、違うよ!ちゃんと緊張してるんだよ!」
「…そうは言ってませんが。まあ、さっさと済ませましょう」
「うい」
でっかい屋敷のまえでこんな能天気な会話をしつつ、でっかい扉を叩く。気分は道場破りである。
「たのもー」
「…誰もいないんですかね。帰りましょうか」
「えー!…あ、開いた」
嬉々として(やっぱり緊張なんかしてないようだ)藍嘉さんは敷地内に足を踏み入れる。
僕も後に続いたが、数歩歩いて鼻に衝撃を受けた。どうやら原因は前を歩いていた藍嘉さんの急停止によるものらしい。
「痛…アイさん、何で急に止まるん、」
「ハク」
「…はい?」
「女の子がいる」
藍嘉さんが視線を外さない、その先に着物姿の少女が立っている。
組長の娘か孫か…それとも、
「誰?」
少女は唐突に口を開いた。鈴を転がしたような、可愛らしい声だ。
うん…是非とも連れて帰りたい。
「ハク、その変態思考やめなよ」
「…すみません。えと、僕らは怪しいものじゃないです」
「……」
少女は黙ってしまった。まるで僕たちを見定めているかのようにじっとこちらを見ている。
< 3 / 18 >

この作品をシェア

pagetop