准教授 高野先生の恋人

彼は、私を抱きしめる力をちょっと緩め、そして、静かに話し始めた。

「ドラマなんかで、ときどきあるよね、そういう場面。

心が打ちのめされて、ずたずた、ぼろぼろになったとき、

“助けて”とか“助けてあげる”なんて、救いを求めて一夜を共にする、みたいな。

助けるって、いったい何なんだろうね?

僕はね、そこにあるのは“救い”じゃなくて“逃避”じゃないかって思うんだよ。

弱さとか、辛さとか、見たくないものや向き合いたくないもの、現実からの逃避。

まあ、セックスは特別な行為だから、現実逃避にはお誂え向きなのかもしれないけど。

“逃避”じゃなければ“避難”という言い方でもいいよ。

だからね、仮に“救われた”と感じても、それは一時の錯覚なんだよ。

身体的な充足感を、精神的な何かに都合よく置き換えているだけなんだよ」

< 108 / 324 >

この作品をシェア

pagetop