准教授 高野先生の恋人

寛行さんは自分のことを臆病者の羊という。

確かに自信満々の俺様とは別世界の住人だ。

けれども、それじゃあ彼が“弱い男”かと言えばそうではない。

彼は軟弱とは対極にある犀利(さいり)な感覚を持った人。

私はふと森岡先生のお宅にお邪魔したときに聞いた美穂さんの言葉を思い出した。

“高野君はちょっと臆病者ではあるけど、断じて卑怯者ではないから”

そう……彼は逃げないし、裏切らない。

「寛行さん」

「うん?」

「もしお父さんが、話なんて聞く耳持たん!なんて態度だったらどうする?」

まあ実際のところ、お母さんの情報によるとその可能性は限りなくゼロなんだけど。

私の意地悪な質問に寛行さんは迷わず誠実に答えてくれた。

「僕は、諦めないよ。何度でも話を聞いていただけるまでお願いに上がるから」

そうして――

まっすぐに前を見て安全運転する彼の左手が私の右手にそっと優しく重なった。

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