恐怖 DUSTER
「ちょっと!みんなどうしたのよ?」


不穏な不陰気に包まれているその場所で唯一、恵子の魔性を感じていない裕子が恵子の後ろから目の前で無言で立ちすくむ三人に向かって言葉をかけた。


「恵子も向きになって言い返したりしないでよ、麻美は弥生が心配のあまり恵子に強く言ってしまっただけなんだから」

裕子は、その場を一生懸命に取り成していく。


「そうだね♪裕子の言うとおりだね♪」


恵子は裕子の方に振り返り笑顔で答える。その表情には先ほどまで強烈に発していた魔性の感情がいつのまにか消えうせていて、そこには、明るくほがらかないつもの恵子がいた。


「ごめんね麻美、つい向きになっちゃって♪もう二度と弥生を脅かしたりしないから許して?」


「わ、解ってくれればいいのよ。ごめんね、私も言いすぎたわ」


麻美は一瞬躊躇しながらも、恐怖に強張った表情をくずして笑顔で返した。


その後ろで、千恵と里美が安堵の表情で二人を見つめていた。


「弥生、さぁ立って」


差し伸べる恵子の手を、恐る恐る握り締めながら弥生は立ち上がった。



・・・私達の中では、全ての主導権は恵子が握っているのね・・・


・・・その事を知らず感じないのは、まだ入れ替わっていない裕子だけなんだ・・・


・・・でも、麻美の恵子に対する感情はなんなのだろうか・・・?


・・・私にも恐怖は理解できるが、それだけじゃないような気がする・・・?



・・・恵子には理解できない魔性はあるが、私達からしてみれば入れ替わる機会をくれた恩人でもあるのに・・・?


・・・いくら私のためとはいえ、あれほど恵子に対して敵意をむき出しにするのにも違和感を感じてしまう・・・?



・・・麻美と恵子の間には、何かあるの・・・?



恵子の手を取り立ち上がった瞬間、恵子から奪い返すように弥生の手を掴み自分の方へと引き寄せ、スカートの汚れを祓ってくれている麻美を見つめながら、弥生の思考は不可解な迷宮へと落ちていった。
< 119 / 190 >

この作品をシェア

pagetop