恐怖 DUSTER
裕子は少し躊躇したが、麻美の願いを受け入れた。


「解った!じゃ先に行ってるから」


裕子は笑顔で麻美に答える。


「ほら、恵子行くよ!」


不満そうな恵子の手を取り、裕子は歩き出していく。


二人の後姿を見つめる麻美の表情はとても穏やかであった。


「ねぇ・・・?・・・もしかして、麻美も私と同じ・・・なの・・・?」


弥生の問いには答えず、麻美は中断した話を続けた。


「あの時、あの時にね・・・弥生は私のお母さんを助けるのに協力してくれたのよ」


「皆が逃げ出したのに、弥生は逃げずに助けてくれようとしてくれた・・・」


「思い出したよ・・・麻美は一人で懸命にお母さんを助けようとしていた」


弥生は、記憶の中の悲しみを思い起こしていた。


「でも・・・でも、麻美のお母さんは・・・」


「お母さんは、あの時迫り来る炎から私たちを助けるために弥生に頼んだよね?」


弥生の表情が暗く悲しみに包まれていく。


「うん・・・麻美のお母さんは、私に麻美を連れ出してくれって・・・」


「お願いだから、この子を助けて・・・て」



「私・・・麻美の手を掴み・・・無理矢理に連れ出してしまった・・・」



「麻美は、嫌だ!嫌だ!と泣き叫んでいたのに・・・」



弥生の脳裏に、母親から麻美を引き離し出口に向かう場面が思い起こされていく。



二人が脱出したのと同時に、バスは炎に包まれていった。



麻美の母親の断末魔の叫び声を聞いた麻美も共に叫び声を上げ、その後一言も声を出す事も身動きすらすることもなく、その場に立ちすくんでいた。


・・・弥生は思い出した・・・



・・・その時に、麻美が感情を無くしてしまった事を・・・

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