ぼくの 妹 姫



「じゃあな。伊東」


宙はお兄ちゃんに頭を下げ



引きずられるように私は路駐してある車の助手席に押し込まれた



「………お兄ちゃん?」



運転席でハンドルを握ったお兄ちゃんの横顔は



―――――――ゾクッ


身震いするほど綺麗で
狂気に満ちている




だって 私には わかるんだ



人の暗闇が




お兄ちゃんが初めて



私に見せた




心の奥の暗闇






車を走らせながら


こちらを向かずに



お兄ちゃんは訊いた



「伊東が好き?」



「………なんで?」


私が震えた声で言うと



「蕾はさ、ぼくのそばにいればいいよ

ずっと、ずっと

そのために、ここに来たんじゃないの?」




ちょうど車は赤信号で止まる



私を見てお兄ちゃんは微笑んだ




「お兄ちゃん………
いつから、あそこで待ってたの?」



「―――――――――ずっと」



笑顔を崩さずお兄ちゃんが答えた後、信号は青になり



また車は走り出した




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