結び目～環のリボン～

第一章。戻りたくなかった場所

「頼む！お前しかいないんだ。戻ってきてくれ！」



本日の天候、晴れ。


気温、３２℃。


いわゆる猛暑ってやつ。


そんな昼下がり、アスファルトの上でわたしに土下座しながら必死に哀願する男がいた。


(こんなセリフ、一度でいいから好きな人に言われてみたい。)



暑さで、ぼんやりする頭を軽く叩きながら、わたしは言った。



「もう先生。土下座なんて止めて下さい。みんな見てますよ。それに・・・わたし無理です！もう退部届け出しちゃったし。」



「そこを何とか。頼む！この夏の間だけ力貸してくれ。」



(だから、特にこの夏の間が無理なんだって)



舌打ちしたくなる気持ちをぐっと押さえ、わたしは先生に話し続けた。



「もう、中３だし受験の準備もしなきゃいけないし。」



(言ってやった。受験の二文字を聞いて引き下がってくれる？)



ところが彼は、そんな男ではない。