カップルのおきて【修正中】

俺はまっすぐに奈々を見た。少しも目をそらさなかった。今ある現実を、この目に焼き付けたかったから。目を背けることは、現実と向き合うことを拒んでいるように、感じたから…。



「奈々。」


「…いやっ…」



近づいていく俺を拒むように、首を振り、長い髪を揺らしていた。奈々の香りが風にのって、俺の鼻をかすめ、これは現実なんだ、と引き戻された。


奈々のすぐ目の前に立った俺を、奈々は見ようとしない。肩を震わせて、膝に涙が落ちていた。


…俺は奈々になんと言おうか考えていたが、必死で走っているうちに忘れてしまった。


いや、どうでもよかったのだ。奈々がこれだけ分かってくれればよかったのだ。飾りたてた豪華な言葉なんて、俺たちには必要がない。
だから、俺は奈々をそっと包み込むように抱きしめて言った。



「…会いたかった。」