ユピテルの神話


あぁ、エマ。

どうか思い出さないで。

心配性の貴女の事だから、
いつか僕を心配して思い出してしまう日が来るんじゃないかと、怖いのです。


僕は、
寂しくなんて無いんですよ?


僕が、
『僕』じゃなくなっても…
僕が居なくなっても。


僕の体は、大地に溶けている。

貴女の愛する、
大地で育った草花に。
大地に根を張った木々と共に…

大地で育った作物に僕は居て、
それを食べた貴女たちの中にも…。


いつか、僕の大地で実をつけた作物を取り込んだ貴女や人々に、少しずつ僕の力が宿り始めた様に…。
少しずつ、少しずつ…
僕は僕を伝えるでしょう。


人々の中に、僕は居るのです。


寂しくはない。

僕は独りじゃない。
貴女も、独りじゃない。

僕たちは、
ずっと一緒に居るんですよ?


僕の体は、この大地。

しっかり僕を踏みしめて、
僕を感じて下さいね。


決して、
僕は寂しがっていない、と…


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