ユピテルの神話


白く霞む花畑でうごめく影に、ロマは目を凝らしていました。


「…おい!何をしている!?」

ロマが声を張り上げると、数名の後ろ姿がビクリと肩を震わせました。

他の村の者でした。

「……!!」

逃げようと振り返った彼らの手には、命を摘まれた花たちの姿が在りました。
沢山の奪われた命が、
静かに握られていました。

彼らの足元の花たちは踏み荒らされ、倒され、

イタイ、イタイ…

と泣いています。

どうして、
この声が届かないのでしょう。
伝わらないのでしょう。


「お前たち!この花畑に触れてはならんと言ってあるはずだ!自分達のしている事が分かっているのか!?」

ロマは老いた声を必死に張り上げて問いましたが、彼らの耳には届いていません。

聞こえているのに、
届いてはいないのです。

彼らに罪の意識は全く無く、
目に映るのは「僕」の姿。

「悪魔」に見つかった、
『自分たちはどうなるのか』
という恐怖心だけなのでした。


彼らは奪った命を無情にもその場に捨て、我先に逃げようと花畑を踏み荒らしたのです。

捨てられた花たちが、はらはらと地に落ちた時、

僕の悲しみが、
「怒り」へと姿を変えました。


< 24 / 171 >

この作品をシェア

pagetop