ユピテルの神話


泣いても彼女の気が引けない事を悟った犬竜は、パタパタと背にある黒い翼を羽ばたかせ彼女の視界を遮りにかかります。


ウゥ…
『…むぅ。だってぇ、ハルカだって「ユピテルの神話」の本いっぱい読んでたじゃぁんッ!もぉ、いいじゃんかッ!』

女の子は顔色ひとつ変えず首を横に振ると、犬竜に言いました。


「本に書かれてるお話は、ほんの少しだけなんだよ?おじぃちゃんのお話だと、もーっと詳しく聞けるんだよ?」

『そ、そうだっけ…?じぃちゃん…樹なのに、動けないのに何で知ってるんだッ?実は昔は動けたのかッ?――…はッ!歩ける樹だったのかッ!?』

そんな犬竜の言葉に、女の子と精霊は声をあげて笑っていました。

周囲の地面に咲く可憐な花たちも又、さわさわと笑う様に自らの光を強くして密やかに揺れています。


「あはは!違うよ!おじぃちゃんは風さんから色々お話を聞いて知ってるんだよ?」

ザワ…
『あぁ、皆より長く生きてはいるが…歩けた事は残念ながら無いのぅ…。』

ワンッ
『――何だよッ、ガッカリ!』

ふて腐れる犬竜の可愛らしい姿に僕からも笑みが溢れ、そよそよと空気が揺れていました。


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