ユピテルの神話


『…すまんが、ちょっと待っておくれ、ユラ…。』

進み出そうとする僕を、森の主が止めました。


「…何でしょう…」

『…折角だが、今は行かん方が良いかもしれん…』

どうしてでしょう。

行かなければ、エマの命が危ないかもしれない。
それなのに僕の行動を止める事には、理由がありました。


『…三人目の訪問者、村の村長じゃ。高熱に苦しむのは、エマだけではないらしい。』

村の多くの者が、エマと同じ状況で高熱に苦しんでいると言うのです。


「…それならば、尚更…」

『今、村にユラが現れれば…村は混乱するじゃろう。助けを求める人々がごった返し、ユラ自身も苦悩を抱える…。村人の主張を鎮められるロマの様な男は、もう村に居ないのだよ…』

「…それでも…」

一刻を争うのではないかと、僕の焦りが募りました。

エマの想いを知り、僕は少し強くなれた気がしていたのです。

例え、村人に心無い言葉を投げ付けられたとしても、もみくちゃにされようと、耐えられる様な気がしました。


『…ユラが苦しむ様な事があれば、一番に悲しむのは…エマなんじゃよ…。あの子の今までの想いを無駄にせんでくれ…』

その言葉に、
僕は鎮まりました。


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