ユピテルの神話
記憶にはありません。
でも僕は知っていたのです。
僕は、この街からこの世界へ来たのだと確信が持てました。
この街に入れば、何かを思い出すのかもしれないと息を飲みました。
ワン…
『…行くの?戻ってこれる?』
ロマの言葉に、進みかけた足が宙で止まりました。
長い時間ここに無かった街。
何時この世界から消えてしまうかも分かりません。
「…でも、きっと僕は、知らなくてはいけない…」
ずっと知りたかった事です。
今を逃せば、次は何時現れるか分からないのです。
クゥン…
『…俺、入っちゃ駄目な気がする。エマ、悲しむ。』
「……でも…」
恐る恐る一歩ずつ、
僕は街との境界まで進みました。
大きく息を吸い込み、
片足を上げたその時…、
『――…止めとけよ。』
「…!?」
街の内部から、
声が聞こえたのです。
低い男性の声でした。
その声に驚いて、僕はその場で目を凝らしました。
七色の灯りに照らされながら、黒い影が僕に近付いて来るのが分かりました。
『…お前さんは、もうこの街には入っちゃいけねぇ。もう居場所がねぇんだ…。』
男は、確かにそう言いました。
僕を知っている様でした。