現実(リアル)-大切な思い出-
夜だから気付かなかったが、どうやら天気が悪かったらしい。

暫く歩いていると、雨が降り出した。

冷たい雨が、冷えている身体から更に体温を奪っていく。

歩く気力さえも、奪われていくようだった。


「おーい?こんな所でどうしたんだ?」


しゃがみ込んでしまった私に、声が掛かった。

ゆっくりと顔を上げれば、何かの店の前で、男性がこちらを見ている。

反応のない私を見て、その男性は雨に濡れるのもかまわず駆け寄ってきた。


「おい、大丈夫か?」


「問題ないです。すみません」


私は軽く頭を下げ、立ち去ろうとした。

けれど、男性がそれを引き止める。

私が少し力を入れて腕を引いても、男性はその手を離してはくれなかった。


「ちょっと寄ってけ。そのままだと風邪ひいちまうし、見ちまったからにはこのまま帰せねぇよ」


「え、あの…」


「お前、珈琲飲めるか?って飲めねぇよな」

男性は戸惑う私を無視し、店へと足を進める。


「いえ、飲めますけど…」


「いやいや、そこは子どもらしくいこうぜ?俺がカフェオレ作ってやるからな」


そう言って笑う男性の表情は、私には少し眩しかった。
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