現実(リアル)-大切な思い出-
ガラッ


「予定通り、包帯取れたのね」


「郷花」


ドアの方向に目を向ければ、郷花の姿が視界に映った。

俺はそれを確認してから、ゆっくりと視線を元に戻した。


「早速来てくれたんだ?入ってよ」


呟くと同時に、近付いてくる足音。

ところがその足音は、ベッドから少し離れた場所で停止した。

椅子までは、もう少し距離がある。

俺は不思議に思いながら、落とした視線を先の方へと移動させていった。


目に飛び込んでくる、他人の足下。

それが郷花のものでないことは、すぐに判った。


「‥っ!!」


勢いよく顔を上げれば、驚きに声を詰まらせた。


そこには、もう二度と逢うことはないだろうと思っていた人物の姿。


「郷花!いったいどういうことっ!?」


俺はドアにもたれている郷花を睨み、怒鳴り付けた。

こんな大声を出したのは久しぶり‥いや、初めてかもしれない。

しかし、郷花は俺の反応を予測していたのか、いやに冷静だった。


「それは彼に訊いて。私は頼まれて連れてきてあげただけ」


「‥立花さん、2人にしてもらえますか?」


「判ってるわ」


郷花はフッと笑みをこぼし、出て行くために背を向けた。


「郷花っ!」


「ごめんなさいね、水月。私、諦めが悪いのよ…」


郷花は背を向けたままそう呟くと、静かにドアを閉め、去って行った。


一度も耳にした事のない弱々しい声が、しつこく耳に残った。
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