〜花魁〜
「またねって…言うとったのに…」
そう言って涙を流す大和の隣で、ずっと黙ったままだった貴史が口を開いた―…。
「俺さ…ずっと謎やったし、今でも良く分かんねーけど……。何で…あの時、2人で逃げなかったんや?って…何で、こうなる前に逢わなかったんや?って―…。」
逃げれなかったのは、俺が弱いから。
逢えなかったのは、勇気がなかったから。
みんなみんな“好き”だけじゃ、どうにもならない現実から
目を背け続けて来た…
――いくじなしな俺のせい。
意地っ張りな空のせい。――
「お前ら…やっぱ姉弟だよな〜。羨ましいよ。」
俺、一人っ子やから…姉妹がいて羨ましい。
そう付け加えて言った貴史は、きっと近い将来…俺と義理やけど、兄弟になるんやろうなーって思った。
「はい!!過去の話は終わり。ここからは光の将来の話や。俺…ビックリする人と会ったって言ったやろ?誰やと思う?」
『…さぁ?』
「良く考えろって!!!!』
もったいぶって中々言わない大和に、心なしかイライラしながらも、真面目に考えているフリをした。
『貴史も知ってるん?』
「知ってるで!!」
『まじで、分かんねーし。』
開け放ったままの窓から入り込む涼しい風に、そろそろ梅雨入りを告げる湿った空気が、体にまとわりついて気持ちが悪い。
違う―…。
気持ち悪いのは湿った空気じゃなくて、目の前にあるニヤニヤと笑みを浮かべる…大和と貴史の態度や。
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