さよならの十秒前
代わりに。

「あの…坂井奈緒がいた病院の住所、教えてくれるかな」

そう言うと、修介は少し驚いたようだった。

「どうしたの?急に」

「いや、ちょっと…」

口ごもってしまう。

ただ、行かなければいけないと思ったのだ。

坂井奈緒について、知りたいと思ったのだ。

暇つぶしでなく。

修介への興味でもなく。

もし、彼女の死に、何かが隠されているというのなら。

それを知ることで、何かが、変わる気がする。

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