臆病なサイモン
無愛想な相手と会話を繰り広げる難しさを知った俺はちょっと大人になった。
あの後、神が舞い降りたにも関わらず華麗に叩きおとされた俺の「ララッキー」は、静かな朝の教室の闇に飲み込まれてしまった。
で、無言再び。
ダチンコ達が登校してきてセンセーがホームルーム始めても、あの空気の後味の悪さは忘れられそうにねぇ。
いつもの俺らしくお調子者こいてりゃいいのに、どうした俺、がんばれ、俺。
それでもちょっとは収穫あった。
転入生相手に収穫だかなんだかバカみたいだけど、「わるいヤツ」じゃないんだってことは解ったから、これかなりの進歩じゃん。
彼女はちょっと毒舌な今流行りのツンデレ……そうだツンデレだ。
ツンが九割、デレが一割のツンデレだ。
そう割り切るしかねぇ。
いいじゃん俺、大人じゃーん。
「……」
でも、目の前に広げられた進路表を見たらもうなにがなんやらアンダーグラウンドな世界が広がってるよー。
ヘイ、ブラザー見てみろよ黒い川が流れてやがんぞ。
てなる。
第三志望まで記入できる空欄の上に「よく考えること」て書いてあるけど、そんな必要なくね、と俺は思った。
どうせテキトーに入った高校でテキトーにハイスクールライフを過ごすんだろうし。
そっから先の進路を決めるのは、そんなハイスクールライフ楽しんだあとだって遅くないだろ?
でも。
「親御さん達ともよく相談して」
て言うのは、センセー。
中学三年、俺ってば受験生。だけど、大学行くか就職するかを決めるのは、まだずっと先のハナシ。
「本決め」は、まだまだ先なんだから、別に今、「よく考える」必死ないじゃん、て思うよな、やっぱ。
大人はガキくさい甘ったれた考えだ、なんて一蹴するだろうけど、俺らにしてみたら、たかだか十五歳で「人生の選択」みたいなもん迫られたくない。
正直、なんで選挙権を十八歳に引き下げたのかもわかんない。
ガキだガキだって馬鹿にするわりに、こういう時だけ「大人」扱い。
「大人」ってズルいわー。
カリカリ。
でも、意外と真面目に考えている奴らもいるんだ。
それを小馬鹿にする権利は俺にはないし、むしろ素直にすげぇな、って、思う。
今の俺には逆立ちしたってできねえことだから。