臆病なサイモン






つい、この前の話だけどさ。


「なー、将来、なにになりたい?」

て、ぽっちゃりブラザーに尋ねてみたわけ。したらブラザー、急にマジな顔してさ。

「ミスチル」

って答えたんだ。

スマート!グレイト!俺には転生したって真似できねぇ回答だった。

でもブラザー、そのすぐ後にさ。


「…ほんとは教師。これ、ファイナルアンサー」


て。

俺、感動する前に焦った。

なにコイツ、すごいじゃん。

ちゃんと自分がなにしたいか知ってる。

それが叶うか叶わないかは、十五歳の俺らにはまず関係ない。
ただ、「それ」があるかないかの差は多分、目盛りが書いてある定規と、書いていない定規くらい差がある、と思った。



カリカリ。

で、俺を焦らせる奴が隣にもいる。

ダンゴさんは相変わらずの無表情で、それでもその手はスラスラスラーと空欄を埋めてってる。
なに書いてるかは解らないけど、真顔で、じっくり考えながら、カリカリカリカリ。

うちに持って帰って、親に見せんだろうなー。
見せる前から自信持って、「コレ!」って言えるってかっけぇなー。




カリカリ。

……俺、この「カリカリ」に殺されそうだと思った。




(なぁ俺、なにしたいのよ?)

ハートをノックしたところで返事なんかないし、それに俺、実は知ってるんだ。

俺がほんとに「なりたいもの」がなにか。
でも多分、一生口にしないで死ぬ。

これだけは自信、あるわ。


(…あーあ、なんかムシャクシャすんなぁ)

窓の外。乾いたグラウンドでサッカーやってる奴らの中にも、「俺、これになりたいんスヨー」って面と向かって言える奴はわんさかいるんだろう。

それ考えると、微妙に憂鬱。

(つか、なんの為に高校に行くのかわかんね)

受験、このキンパツのせいでスムーズに進まない気がするし、地味に。

面倒を考えると、頭が痛くなってきた。



(…いかんわ、限界)

だから進路を考えるフリして、ポケットに手を突っ込む。

チャリ。うちの鍵とまとめてある屋上の鍵を確認した。

(早く放課後になれ)

妙な焦りが、俺を、俺のフリーダム・屋上へと、駆り立てていた。







< 21 / 273 >

この作品をシェア

pagetop