臆病なサイモン
つい、この前の話だけどさ。
「なー、将来、なにになりたい?」
て、ぽっちゃりブラザーに尋ねてみたわけ。したらブラザー、急にマジな顔してさ。
「ミスチル」
って答えたんだ。
スマート!グレイト!俺には転生したって真似できねぇ回答だった。
でもブラザー、そのすぐ後にさ。
「…ほんとは教師。これ、ファイナルアンサー」
て。
俺、感動する前に焦った。
なにコイツ、すごいじゃん。
ちゃんと自分がなにしたいか知ってる。
それが叶うか叶わないかは、十五歳の俺らにはまず関係ない。
ただ、「それ」があるかないかの差は多分、目盛りが書いてある定規と、書いていない定規くらい差がある、と思った。
カリカリ。
で、俺を焦らせる奴が隣にもいる。
ダンゴさんは相変わらずの無表情で、それでもその手はスラスラスラーと空欄を埋めてってる。
なに書いてるかは解らないけど、真顔で、じっくり考えながら、カリカリカリカリ。
うちに持って帰って、親に見せんだろうなー。
見せる前から自信持って、「コレ!」って言えるってかっけぇなー。
カリカリ。
……俺、この「カリカリ」に殺されそうだと思った。
(なぁ俺、なにしたいのよ?)
ハートをノックしたところで返事なんかないし、それに俺、実は知ってるんだ。
俺がほんとに「なりたいもの」がなにか。
でも多分、一生口にしないで死ぬ。
これだけは自信、あるわ。
(…あーあ、なんかムシャクシャすんなぁ)
窓の外。乾いたグラウンドでサッカーやってる奴らの中にも、「俺、これになりたいんスヨー」って面と向かって言える奴はわんさかいるんだろう。
それ考えると、微妙に憂鬱。
(つか、なんの為に高校に行くのかわかんね)
受験、このキンパツのせいでスムーズに進まない気がするし、地味に。
面倒を考えると、頭が痛くなってきた。
(…いかんわ、限界)
だから進路を考えるフリして、ポケットに手を突っ込む。
チャリ。うちの鍵とまとめてある屋上の鍵を確認した。
(早く放課後になれ)
妙な焦りが、俺を、俺のフリーダム・屋上へと、駆り立てていた。