臆病なサイモン








「…あ、ダンゴ」

たまたま通り掛かった職員室からダンゴが出てきた。

「なにしてんの」

思いの外、自然に話し掛けてた俺に俺がびっくりしちゃったけど、ダンゴはダンゴで嫌な顔ひとつしないで俺の隣に並ぶ。

あんれれ、なんかナチュラル…。

その動作が妙に慣れてて、違和感もなくて、ちょっとドキッた。
身長だけはひょろっとしてる俺の肩の位置で、小さく纏められたお団子がゆるゆると揺れている。
屋上では汗で張り付いていた後れ毛は既に乾いてて、今は爽やかにダンゴの首筋でふわふわーぉ。

ちょっと凝視してしまった。

思春期てこわい。



「……生活指導の先生に用があっただけ」

そのダンゴの言葉にハッとなる。

朝、魔女との戦い。
屋上で吐き捨てられた言葉がまざまざと蘇った。

『あのクソアマがトイレでタバコ吸ってたの、先生にチクろ』

無表情に吐き出されたのが逆にこわい。
マジでやりかねない感がマジでこわかったし。

「……チクったの?」

恐る恐る尋ねたら、ダンゴは眉を顰め、なにが、って顔をした。

片眉だけくいと顰めるから、すげーニヒル。

アンジーみてぇ。




「まじょの……」

ボソッと周りの誰にも聞こえないように呟いた。
ダンゴには辛うじて聞こえたらしく、訝しげな顔を今度は呆れさせて、あぁ、アレね、と漏らす。

「それはもういい。チクったあとのこと考えたら面倒臭くなった」

心底からダルそうな声を出すので、俺も妙に納得してしまった。

あの肉を切り裂くようなカラフルな爪を思い出す。
もしチクったのがバレでもしたら八つ裂きにされるだろうな、と容易に想像がつく。
しかもそんな爪をした魔女はひとりじゃない。魔女仲間を呼ばれたら俺達みたいなしょぼいパーティは全滅だ。

「それもそうスね…」

あんな存在自体がジョークだろっていうような爪で、日々どんな生活してんのか不思議すぎる。
現代学校の七不思議認定。

タイトル「魔女の爪」。

くだらねぇけどなんかリアル。
で、ダンゴとの会話が途切れたのも、リアル(現実)。

「……ところで今日、屋上来る?」

なんか話題ないかな、て。
天井見ながらふと気になったことを、思うより先に口が吐き出してた。

俺ってば正直すぎる。

なんか今のイヤミぽかったかも、やべーなんてのも束の間。




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