臆病なサイモン
「一人になりたいなら、別のトコで暇潰すから大丈夫」
俺の質問に、さして顔色も変えずに落ち着いた声で答えるダンゴ。
やっぱ正直過ぎて言葉が足らなかった。
ダンゴの言葉に、いや、ちがうの、ごめん、そうじゃなくてね。と弁解。
「来るなら、コンビニでダンゴの分もなんか買ってくるけど」
ここだけのハナシ。
俺、ダンゴに対して勝手に親近感湧きすぎかもしんない。
話題なかったからってのもあったんだけど、こんなのらしくないじゃーんて、心の中のブラザーが言ってる。
今の俺、スゲー馴れ馴れしいかも、とビビりつつ、ダンゴの反応を見たら。
「……オゴリ?」
無表情でぐいぐいハナシに乗ってきた。
半ばビクビクしながら、その反応に俺も思わず、にやぁと笑い返す。
「……じゃあ、ガリガリくん」
そして、にやあ、と笑い返される。
性悪な笑い方すんなーと思いつつ、飛び出したダンゴのリクエストがあまりにポピュラーアイテムで、思わずにぃーと口の端が伸びた。
多分、朝の屋上が暑かったからだろうな、って安直な考えからなんだけど。
「……サマーサマーだね」
笑いを誤魔化すように、窓の外を見上げる。
向かいに建つ三階建ての校舎の上に、分厚い青空と、同じくらいもさもさした入道雲が見えた。
ギラギラ照りつける太陽は真後ろの位置。
開け放たれた窓から入る生温い風がこっちに走ってきて、当然のように俺のキンパツを舞い上げていく。
視界にチラチラ、いつもなら気に食わない細い金色が入り込んだけど、気分は悪くなかった。
そうそう「夏」ってこういう感じだよな、ってやつが、目の前に映像化されてる。
視界の端。
それを見ながらダンゴが眩しそうに目を細めたのに気付いて、俺は堪えてた笑いもぶっ飛んだ。
(……正直なのは、俺じゃねえじゃん)
腹の中に色々と溜め込みながら、周りの評価が怖くて表じゃイイ顔してる俺なんかよりずっと、この女の子は正直かもしれない。
まだ会って間もなくて、よくも知らないくせに、なんか申し訳なくなる。
自分に似てる、ってビビってたのが馬鹿っぽい。似てるとか言ってすまんかった。
(……けどさ、)
それでも、さっきの言葉。
『別のとこで暇潰しするから、大丈夫だよ』
ってやつに、ちょっと思うとこがあった、俺。
(家に帰りたくないってことだよな)
もしかしたら違う理由かもしれない。事情だっても知らない。
けど、「屋上」を目指す理由は同じだから。
(ま、俺ら思春期真っ只中のチュー坊だから)
色々あるんだ。俺の「キンパツ」がそうであるように。
「じゃあアイス、買っていく」
俺が振り向いた時には、ダンゴはもう無表情に戻ってた。
ウケる。
どれが一番ダンゴらしい顔なのか、俺には解らないけど。
「…先生にはチクんないけど、あの魔女には痛い目見せてやる」
そんで突然、そんなこと言い出すから、またもやウケる。
どんだけしつこいんだよコイツ、って。
多分、ちょっとやそっとじゃ諦めないんだろうなぁ、ヘビみてぇ。
でもそういうの、嫌いじゃなかったりします、俺。
「そん時は俺もやる」
だからヘルプゆってきてね、と笑ったら、ダンゴも笑った。
あぁ、さわやかな夏、だ。
そのまま下らないことチマチマ話しながら、学年ごとの職員室が並ぶ廊下から抜ける。
一般校舎に入ると、ダンゴはトイレ、と言って俺から離れていった。