リベンジコレクション
「もったいないな」

 落ち着いた大人の声だ。

高すぎず低すぎず、こんな時でなければ特に印象には残らないだろうが、耳に優しい声がした。

 強い日差しの中、じりじりと焼けていた頭に影が差す。

座り込んだまま涙で滲む視線を上げれば、シンプルなスニーカーと細身のジーンズが目に映った。

視界の隅に映る人の動きがやけに遅い。

ゆっくりと視線をさらに上げると、白いTシャツが目に映る。

男の顔はまだ見えない。

先程まで我関せずと足早に通り過ぎて行っていたはずの通行人が、なんだかざわついている。

涙がひいてクリアになった視界をさらに上げた私は、ようやく自分を見下ろす男と目が合った。

その瞬間状況を忘れ、彼に魅入る。

 顔は凄まじい美貌、というわけではない。

不細工ではないけれど、この程度なら身近にも探せばいるよね、と思える雰囲気イケメンのレベルだ。

しかし街中の人々は、男の存在に一瞬足を止める。

声をかけられた私はと言うと、ただ目を見開いて男の姿を目に焼き付けた。

周囲を惹きつける圧倒的な存在感が、男にはある。

「あそこから見てたんだけどさ」

 男が示した方向に顔を向ければ、大手コーヒーチェーンの店舗があり、そこには道沿いを眺める席が用意されていた。

今そこに座っているお客さんたちはこちらに興味津々の様子である。

確かにあの席からならば、道のど真ん中で繰り広げられた男女劇がよく見えただろう。
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