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オモセッスアーレ#2

「待って!」

それでもどんどん彼女は歩いて行ってしまった。

「ま、…待って…僕は…」

ようやく立ち止まってくれたものの、彼女の顔はすごく怒っていた。

「あなたのそういう所気に入らないわ!どうして相手を庇うのよ。悪いのは彼の方でしょ!?」

彼の事でなんでこんなにも腹が立つのか、自分でも不思議だった。

たった、数時間前に会ったばかりなのに。

「…同じような事を彼にも言われた…。”どうして俺が悪いのに君は怒らないんだ”って」

彼は苦笑いにも似た笑みを浮かべた。

「何も言えなかったんだ。…知ってたのに何も言えなかった…。オモセッスアーレって、浮気なんて多いし、その日かぎりなんてザラだしね…。でも、ヒナタさんの言う通り、特定の相手が出来るとエテロセッスアーレの人たちよりも、その人を大事にする」

「なら、どうして?」

「わからない…。でもやっぱり彼を怒る気にはならなかったんだ」

「わからないわ…あなたって本当…」

「お人よし?」

そう言ってクスっと笑った彼の顔は穏やかだったようにも見えた。

「自分でもわかってるんだ。それが良いって言ってくれた人もたけど、でも、そういう自分を変えたくて日本を出たのはたしか。それで、僕思ったんだ。”あー…やっぱり僕は日本人なんだ”ってね。向こうは日本よりオープンだし、楽しかったはずなのにね…」

「…やっぱりあなた変わってるわ…。自分を理解出来たのに、恋人に振られたくらいで日本に帰ってくるなんて。私なら絶対見返してやりたいと思うのに」

「うん…でも帰ってきて良かった。ステキな出会いがあったし」

彼はまるで子供のように無邪気な笑みを浮かべた。

「…どうして私なの?」

「え?」

「どうして私を選んだの?」

私の問いに、彼は一瞬目を逸らしてから口を開いた。

「…僕ね…昔母さんから性的虐待を受けてて…本当は大人の女の人が怖いんだ…。…でも、君はまるで今にも泣きそうな女の子みたいだったから…」

言葉を詰まらせて言った事は、予想外の答えだった。

「…ヒナタでいいわ。私もユキヒコって呼ばせてもらう。…少し、私の話も聞いてもらおうかしら」
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