君に許しのキスを
あたし自身は、頭に血が上っていたせいか、あまり覚えていないけれど、
そんな失態を引き合いに出されるのは、
気分の良いものではない。


「あのことはもう謝りました。
それにタコが墨を吐くのは、
敵に襲われそうになったとき、相手の目を眩ませて逃げるためで、
自分から積極的に墨を吐いたりはしないはずです。」


「へえ。
じゃあ沓宮さんの方が勇ましいね。
あ、別に責めてるんじゃなくて、褒めてるから。
あんな暴挙をあんな凛々しく出来る人、
他に居ないと思った。
名前通りの、凛とした、恰好良い女。」


いつの間にか彼は、あたしのことを見つめていた。
そしてあたしも、彼の瞳に吸い込まれるように、
彼を見ていた。


あたしたちの間の距離も、気付けばほとんどなく、
触れようと思えば、すぐに触ることの出来るほどだった。
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