魑魅魍魎の菊
ふと——上を見上げれば、涙でぼやけて月光と何故か青い蝶がゆらりゆらりと飛んでいたのだ。
あまりにも妖しくて、月光にすら体を蝕まれそうだった。
そして、庭では物の怪達が世間話をしておりその奇怪な姿にも慣れている自分が何だか憎い。
(——毒されているのか、感化されているのか)
『やはり"玖珂家"の力は素晴らしいですな!!』
『何でもまた強力な妖怪を従えたそうで』
耳に飛び込んで来たのは、巷で噂の「陰陽師・玖珂義影」のことだった。
——お会いなどしたことはないさ。その方は朝廷からもさらに庇護を受けている由緒正しい家柄なのだ。
陰陽師などただの役人に過ぎないが、"あの一族"は特別な力を持っているらしい。私などただの庶民、お顔を拝見などそんな…ね。
(——やはり、由緒正しいお家柄は物の怪の世界にすら名が轟くのか)
*
儂は"異質"だ。
盲(めし)いているからこそ、邪(よこしま)なモノも見えるのである。我が名は玖珂 義景。
代々続いているという陰陽一家の当主も務めている。
「——今宵の風は騒がしい」
シャランシャラン、と携えている錫杖の音が耳に響いているのだ。儂は生まれた時より光とやらを失っている。
だからといって不便などと感じたことはない。
奇妙な温度差を含んだ風が儂の体を包み込むのだ。妙な胸騒ぎを感じながらも、私は歩き慣れた畦道を歩き出す。